ストーリー

不二夜ベルタ 笑わないシャドウ #11

文/河端ジュン一

「何を見ている?」
 四色に輝く光の筋が天を翔けた。その方角へと急ぎながら、クリストファがベルタの手元に視線をちらりと向けた。
「ああ……父へ定期連絡を」
 父には許可を得ずに家を出てきた。友達と一週間ほど旅に出る、連絡は定期的に入れるとだけ書き置きを残した。
「父上は心配しているだろうな」
「……どうかな」
 言いながら、ベルタもそのとおりだろうとわかってはいた。
 幼い頃の狩り。そのときの些細なショックが原因でベルタは猟銃を獣に向けられなくなった。父とは口を利かなくなった。
 けれど、それらはすべてベルタのわがままみたいなものだ。父がベルタを嫌ってなどいないことを知っている。
 だから仲直りをしたい。昔と同じように一緒に過ごせる、素直な娘に戻りたい。
 ただ、そうなるためにはベルタが過去を乗り越えられるだけ強くなるきっかけが必要だった。
 この旅の中でそれを見つけるつもりだった。
「この旅を終えれば貴嬢は家に戻る。そのための、心の準備はしておくことだ」
「もちろん、そのつもり」
 と、答えてクリストファの顔を横目に見ると、彼は珍しく表情を崩していた。自嘲的な笑みを浮かべて呟く。
「まあ、覚悟しておかなければならないのは、我も同じだが」
 ……そういえば、クリストファの家族について何も知らない。
 雰囲気からして、まるで皇族のような家柄なのだろうか?
 そう思っていると、クリストファはベルタの視線に気づいて優しく微笑んだ。
「今でこそ我は、このように堂々と外を歩けるが、もとは根暗な一般人Aに過ぎない。家からろくに出ようとしない引きこもりみたいなものだったのだ」
「え? そうなの」
 華々しい外見からは想像できない内面だ。
「ああ。ゆえに我に、外界へと出る動機をくれた天啓には感謝している」
「……それは、ぼくも同じ」
「互いに、帰宅したら家族に謝らなければな」
「…………うん」
 石灰岩だろうか、白みがかっていて凹凸の細かい岩がいくつも積み重なった岩場があった。そこを抜けると、いよいよ白い大樹の前に出た。