ストーリー

神が導く世界

文/河端ジュン一

 神醒術は一般人からすれば、いまだマイナーな分野だ。
 最大の理由は、その手の届かなさにある。
 初期投資額だとか、そういった金銭の問題じゃない。圧倒的なまでの才能の壁。
 これまでに「術」とついた分野は、ちゃんと学びさえすれば「多くの人間が」「おおむね最低限のクオリティで」操ることができた。医術、武術、美術、どれもそうだ。
 しかし神醒術は、たとえば適性がなければ最低限のクオリティ――初歩的な神律の起動にすら届かないことがある。努力を裏切られる可能性が、他分野よりもあまりに高い。
 さらに、最低限の才能があっても伸ばせるのは普通、一色分の技術だけ。
 多くの人間は絵具を持たせてもらえるレベルにすら届かず、届いても一色しか使わせてもらえない絵画。学ぼうとする人間は少ない。
 この分野には人口がなかなか増えず、選ばれた者だけが修めるにとどまる。

 ただ、それでもやはり分野としては革新的で、世界を変えるほどの技術に変わりはない。なぜなら仮初とはいえ神話を顕現するほどの可能性をもっているのだから。
 極端な話、神醒術士たちの感情が一斉に悪に向いたなら、世界は抵抗できずに破滅の終焉を迎えるだろう。逆に正義の存在になれたなら、世界は平和に満ちるだろう。
 ゆえに才能に選ばれなかった者たちは、神醒術士とその組織の動向を無視できず、固唾を呑んで見守っている。
 それが世界の現状だ。

 そして今、神醒術を取り巻くバランスはどうか。
 実に「危うい」というのが正直なところだ。

 まっさきに、大々的に神醒術を取り入れようと動いたのが各国の軍事機関と違法な武力組織。つまりは平和と無縁な集団だった。
その次に警察、医療、防災、エネルギー産業、建築、スポーツ分野などへと続くが、これはまだ脇道的な扱いに過ぎない。
 たとえばアジアの小国にある八幡学園都市では、社会貢献に役立つ人材育成という名目で神醒術士を育てているが、その実、本当に力のある者は国家公務員として引き抜かれて怪しい国策に手を貸しているとの噂もある。

 神醒術士が、もしも世界に破滅の終焉をもたらそうとしているのなら。
 それに歯止めをきかせることができるのも、神醒術士しか有り得ない。

 誰かが正しい方向へと導かなければならない。