ストーリー

霧島ケイゴ 若鬼のディベロップ #10

文/河端ジュン一

 2日目から3日目にかけては、やはり川沿いを進んだ。この森は、外から見ているよりも遥かに広大だ。間違いなく、なんらかの神醒術的な影響を受けているだろう。

 3日目の、日が沈む間際くらいだった。
 アンヤと出会った崖の下を流れていた川を指針に、上流へと遡っていったので、標高の高い土地――森の中心へと近づいている実感はあった。
 ただ、しばらく行った先で滝にぶつかった。
「行き止まりか」
 川沿いをさらに進むには、滝の基盤となっている崖を上るしかないようだ。ただし、崖は標高が高いうえに、手足を駆けるようなとっかかりも少ない。
「神格で上を見てみようか」
 言って、リリーはベリアルを顕現して飛ばした。神格と神醒術士は繋がっているので、ある程度の距離に限り、神格の見た景色を術士も見ることができる。
 しかし、ベリアルは高く高くのぼった先、崖の頂上に至る少し手前で止まった。ぐるぐると、手持無沙汰に旋回している。
「どうした?」と、ケイゴがリリーを窺う。
「参ったな。情報の渦流があって、あれより先に進めない。無理に行くと神格が形状を維持できなくなって消失してしまう」
「なに? けど地図によると、白い大樹はこの先だよな?」
「ああ。どうすべきか……」
 リリーが上を見上げながら、ベリアルの顕現を解除する。額に垂れる汗を拭った。
 ケイゴはそれを見つめてから、脇を流れている川に視線を移す。
「ここはまだ、流れが穏やかそうだな。昨日の激流と比べても」
 滝が落ちてくる付近は急だが、そのすぐ先からは大小さまざまな岩がまばらにあり、そのおかげで水流の勢いを殺してくれているようだ。
「島に来る前に見た天気予報ではおとといには雨が降っていたらしいからな。昨日の激流は水量増加のせいもあったのだろう」
 ケイゴは少し思案してから言った。
「汗を流さねーか?」
 とりあえず、先に進む手段を思いつくまではやることがない。日が沈む前に、川に入りながらぼんやりと考えていれば、妙案が浮かぶかもしれない。
「汚れが気になるのか? そなたが望むなら好きにしてくれていいぞ。私は別にいらぬが」
「いらぬがじゃねーよ。ていうかオメェがメインだよ。気遣いをわかれ」
 ケイゴから見ればリリーは一応、年頃の少女だ。丸一日森の中を歩き回ってシャワーすら浴びていないというのは、まずいだろう。
「む……? つまり、それほどまでに私が汗臭いということか?」
「はあ? いや、むしろまったく臭くはねえから驚いてるけどだな……そういうことじゃなくて。つーか、自分で気にならねーの? そういうの」
「まったく」
「んー……やっぱオメェには色々と、その年代の女子に必要なもんが欠如してるな」
「必要なもの?」
「いや、まぁオメェ自身は、それをいらないと思ったから目もくれずに生きてきたんだろうけど」
「なんだその口ぶりは。ケイゴは一般的な女子に詳しいのか?」
「っ……いや、そんなこと知らねーよ。他人と比べようもないし。たぶん、この歳としては人並みじゃねーかな」
「そうか」
「あっ、つっても別に下心で水浴びに誘ってるわけじゃねーからな? 勘違いすんなよ、あくまで紳士的気遣いだぞ」
「……ふむ?」
 ケイゴは念のために弁明するが、それすらもリリーはよくわからないといった表情だった。ケイゴは舌打ちをして、リリーの手を握る。
「つーか、オレの話はどうでもいいんだよ。ほら、ちょっとついて来い」

 水浴びのために川沿いへ接近。身長よりも大きな岩がいくつかあって、互いに身を隠し合って水に入るにはちょうどいい。
 と思いきや
 リリーが脱ぎ始めた。ケイゴは慌てて叫ぶ。
「うおおい!? なにさらっと脱ぎだしてんだよ!」
「む?」
「む、じゃねーよ! なんで不思議そうに首をかしげてんだよ、常識でわかるだろ!」
「いや、ゲートと炎鞭はもちろんつけたままでいるぞ。急な襲撃があるかもしれぬからな」
「そういう話じゃねえッ!」
 さすがに見ていられなかったので、ケイゴは岩場の影にはいって背中を預け、反対方向を向いていた。
 と、その数分後。
「ぬわおっ!?」
 リリーの悲鳴。
「ッ! どうした、襲撃か!?」
 ケイゴが反射的に飛びだすと、リリーがすっぱだかで、片手を高らかに掲げていた。そこにメキメキと握りしめられているのは、ビチビチと跳ねて抵抗する、シャケくらいのサイズがある巨大な魚だった。
「水浴びをしていたら、今夜の夕飯を捕まえたぞ! 焼いたらきっと美味に違いない!」
「…………」
 もはや突っ込む気力すら起こらなかった。
 リリーの身体は筋肉と脂肪のバランスがとれていて、美しい。美しいのだが。
(女の裸って、恥じらいがないだけでここまで色気がなくなるんだな……)
 と、ケイゴはそれこそ死んだ魚のような目で思うのだった。
「……うん、お手柄だな。わかったから、さっさと上がって服を着ろ」
「ああ、そうだった。待たせて悪かった」
 いいよ、とケイゴが手をひらひら振って岩場の影に戻る。