ストーリー

久光ラジーヴ 鳴らないハーモニー #16

文/河端ジュン一

 あの夜は、野宿をした。それを見越して、リュックには寝袋を入れてきていた。
 そして、3日目。
 のっぺりとした部族っぽい石像はチェルシーが資料として回収していこうとしたが、どういうわけか一定距離以上を歩くと、見えない強い力で元の位置に引っ張られて移動させられなかった。きっと、大がかりな儀式術によって土地に縛られているからだろう。
 石像を持ち帰ろうとしては元の位置に戻され、戻しては持ち帰ろうとしてをコミカルに繰り返すチェルシーは、見ていて微笑ましかったけれど、いつまでも笑っているわけにもいかない。やがてチェルシーも呆れたように嘆息して諦めた。
 それから、もはや先に進むしかないのでひたすらに脚を動かした。ケイゴとリリーが呪印を見つけ出してくれないと無駄足になる可能性はあったが、それでも。
 そして、10時間以上は歩いただろうか。夜が更け、暗い空の先にやっと、白い大樹がぼんやりと滲むように見えてきたころだった。
 突然、バシュウゥゥゥ――! と。
 空に、花火のような4色の軌跡が、それぞれ島の異なる方向から打ち上がった。
 赤、青、黄の光。黒は、闇そのものを筆で撫でつけたような跡。
「チェルシー!」
 ラジーヴは確信する。あのうちの黄色と青は、これまでにラジーヴたちが通ってきた路程の方角から上がっている。ということは――
 チェルシーも同じことを思っていたらしく、唇の端を上げている。
「うん。あのふたりも、ちゃんと働いてくれたみたいだね」
 4色の軌跡はやがて天高くでぶつかり合って虹色めいた閃光を放ってから、垂直に落下した。
 落下地点には白い大樹がそびえている。大樹は水を吸い込むように、4色の軌跡を吸収した。
 ラジーヴとチェルシーは、それまでの疲労を忘れて駆け出した。

 走り去るふたりの背中を、木の枝の上で、小リスが見つめていた。ただのリスではない。神格だろうか、衣服を着ていて、まるで子供向けアニメーションのキャラクターみたいだった。
 子リスは性格悪そうに、唇の端を片方だけ上げてクスクスと笑う。
「おお、怖ろしい、怖ろしいね……不幸が迫っているよ、きみたちの誰かに、抗いようのない終焉がやってくるよ……クススッ」
 神格は普通、人格を持たず自発的には喋らない。それでも言葉を紡ぐのならば、そこには島民たちの無意識的な、未来への不安が投影されているからに違いなかった。
 ギンヌンガガプの森は聖域。邪な心で踏み入れば、洗礼を受ける。